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もうひとつの訃報

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    寂しさよりも、無念さが募り
    ブログに書く気になれなかった。

    尊敬し、敬愛していた調律師の
    辻文明氏が先月22日早朝にお亡くなりになった。

    なんということか・・・実に残念である。
    辻氏がヤマハを定年退職されてから以後10年間のお付き合いだった。

    山季にとって、子供の頃からの日本人恩師が亡くなり、
    ウィーンの恩師達が次々に亡くなり、
    自分にとって「怖い人」がいなくなった時に
    辻氏は私の前に現れた。

    私が夢に描いていた「鍵盤の感触」を
    愛器・ペトロフ・ムンディアルで、
    「全然手が入ってないね」と仰って、
    こともなげにそのタッチを作って下さった。

    以来、ベーゼンドルファーの選定の時も
    山季のお弟子達がベーゼンドルファーを購入する時も、
    必ずお付き合いくださった。

    いつも自宅にお出で頂き、調律調整を終えて
    「山季先生ちょっと弾いてみてください」
    ・・・その言葉が一番怖かった!
    果たして自分は楽器を正しく鳴らしているか・・・
    タッチの具合はどうか・・・
    辻氏のその言葉が、まるでテスト開始の宣告のようで。
    やはりお世話になった門下生は、
    ピアノの人生で一番緊張するとき!
    と、口々に言っていた。

    でも門下生に
    「レガートがかかるようになったね」
    「山季先生にしっかりついて行きなさい」
    「間違ってないよ・・・」
    とお声をかけてくださったという。

    私は初めてのCD録音を辻氏とさせて頂いた時に、
    彼の偉大さそれまで以上に知った。
    かなりの毒舌家でもあった彼だが、
    ヨーロッパで調律のお仕事をなさっていた頃のお話が
    私には「宝」だった。
    あのリスト弾きのシフラとはかなり密にお仕事をなさったようだ。

    アラウ、リヒテル、エッシェンバッハ・・・
    ここで彼と組んでいたピアニストの名前を挙げても仕方が無い。
    でも、私が最初に
    「そう、この鍵盤の感触なんです!」と叫んだ辻氏の調整は、
    それら偉大なる20世紀の大ピアニストから学んだということを伺った。

    お亡くなりになるひと月前に、
    スタジオリリックの加藤さんがお見舞いにいらした際、
    「山季先生は上手くなってる?」と仰って下さったとか・・・

    感謝してピアノに向かうことが、
    辻さんへのお弔いになると、自身に言い聞かせた次第である。

    山季布枝 * 山季の気まぐれブログ * 23:33 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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